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2008-11-28

ホームレス小学生 - 続き

湯船に身を任せながら俺は、今日は散々な日だったなぁ、と回想に浸っていた。立ち昇る白い湯気が静寂を告げる中、ついさっきまで百合子ちゃんが隣に居たのが、まるで嘘のように感ぜられた。



結局あの後、つまり「磯野家」の自宅にお邪魔した後、勿論おばさんが再び登場して「実は全部盛大なドッキリでした~」なんて告げる展開があるはずもなく、俺はランドセルっ娘をなだめながら彼女の「家」たる公園まで送迎することにした。

コロコロと気分を変えるのが早い性格なのか、あるいはそういう年頃なのか、それまで黙りこくっていた百合子ちゃんが、帰路に就くや否や、急に饒舌になって表情豊かに喋り出すのである。

「ねぇねぇ、お腹空いたー」
猫撫で声で食糧を催促して来た。さすがにホームレス小学生相手に資金をケチるような良心欠如人格ではないが、奢るのはなんだか癇に障る。というのも、なんだか上手く巻き上げられた気分になるからだ。もしかしてこの百合子ちゃん、小学生にして魔性の女を極めつつあるのだろうか…!?

「弁当買ってくれないと、あたし、大声で助けて!って叫ぶよ?」
自らの立場を利用して脅迫までしてくる百合子ちゃん。末恐ろしい娘だ。押しに弱い俺は、通りがかりのコンビニにて彼女の望みの品を購入。ついでに俺の分も。

帰りが遅くなることを携帯で親に連絡を入れる俺の周りで、百合子ちゃんは嬉しそうに赤いランドセルを揺らしながら回転運動に励む。その満面の笑みを見ていると、どうしても孤児とは思えない。

閑静な住宅街なので車通りは少ないが、あたりは暗いということもあり、さすがに往来の中央に躍り出るのは危ないので、俺は百合子ちゃんの手を引っ張りながら誘導する。真っ直ぐ歩こうよ、とか注意しながら、俺はペットを躾ける飼い主のような気分になる。

しばらくすると公園に到着した。人気のない夜の公園が醸しだす独特の寂しい雰囲気は好きだが、こんな所に小学生の女児が一人で暮らしているというのは、にわかに信じがたい。はしゃぎながら百合子ちゃんはベンチでコンビニ弁当を広げ、隣を指差して「座ってよ」と促してくる。いつもこんなに元気なのだろうか。

周囲は木々に囲まれた、静謐な空間。秋の肌寒い風に身震いしながら、俺は温められたふりかけご飯を貪る。極上の美味しさだった。同じ食事でも、食べる場所と状況によって味わいが一変するのは本当らしく、夜の公園に大感謝しながらウーロン茶で流し込む。

リスのような愛らしい動作でおかずを次々と口に放り込む隣の小学生を眺めていると、彼女は口をアヒルにして、「何見てんのよー」と文句を言い出した。

「今日のさ、告白は結局何だったわけ?」
ずっと気になってた疑問が口を突いた。彼女はしばらく考え込む振りをして、
「城咲先輩は、あたしのこと、どう思う?」と、質問を質問で返して来た。しかも、卒倒しそうなくらい真剣な眼差しで。俺は正直に答えることにした。

「どう思うも何も、嫌いだったらここまで付き合ってやらんよ。まぁ、敢えて言うなら、妹が出来た気分かな」

返答が気に入らなかったらしく、百合子ちゃんは「なによそれ」と言ったきり、そっぽを向いてしまった。女の子ってつくづく難しい。しばらく会話に困っていると、食事を終えたらしい彼女が、再び俺のほうへ向き直って「弁当、ありがとね」と、礼をくれた。どうやら、機嫌を悪くしていたわけではない模様。俺が安堵していると、彼女はまた俯いてしまった。躁鬱の波がこれだけ激しいとは、厄介な娘だ。

「おい、大丈夫か?」
心配になったので声をかける。彼女はゆっくり顔を上げると、目に涙を浮かべて半泣き状態になっていた。さすがに俺もびっくりして、ひたすら対応に困っていた。

「嬉しかった…、の」
「へ?」
「城咲先輩が…、あたしに優しくしてくれるから」
鼻を啜りながら「ごめんなさい」、と呟いていた。俺は相変わらず状況が読めないでいた。

「俺は、別に何もしてないし…」
「あたし、学校でも友達少ないから…、色々話してくれただけでも、死ぬほど嬉しかったの」
俺は沈黙するしかなかった。友達が少なそうなタイプには見えないんだが、人は印象だけで判断できないんだろう。

「あのさ…」
「ん?」可愛らしく首をかしげる百合子ちゃん。
「慎二でいいよ。城咲慎二だから。苗字で呼ばれるの、あまり好きじゃない、かな」

百合子ちゃんは口許を綻ばせた。
「じゃ、これからはしんちゃんだね。しんちゃんって呼んだげる」
さり気なく上から目線なのが気に入らなかったが、かわいいので許す。

何処の馬の骨かも解からない小学生相手にすっかり情が移ってしまっている自分に驚いていると、百合子ちゃんはまたしても爆弾発言を繰り出した。

「今夜、しんちゃんっちに泊めて?」
「それは無理」
さすがに親の目もあるし、たとえなかったとしても、初対面の女子小学生を自宅に泊めるのは、社会常識的に見て、ギリギリアウトなのではないだろうか。それを無難に説明すると、百合子ちゃんは渋々といった様子で、
「じゃ、しんちゃん今日は公園で寝泊りだね」と言い放った。どこまで強引な娘なんだ。やんわりと断ってから立ち上がろうとした刹那、いきなり腰回りに体重がかかった。百合子ちゃんは、全力で抱きつきながら俺の帰宅を阻止しようとしていたのだ。

「いやだ!しんちゃん帰っちゃいやだ!癇癪起こすわよ!」
すでに癇癪を起こしている女児は、弁当を足で散らかしては俺に巻き付き、解放する気配が一向にない。公園の美化に協力しろよ、と注意しつつ俺は必死に振り解こうとする。それにしても癇癪という言葉を小学生で知っているのは、かなり珍しいような気がするのだが、状況的にどうでもよかった。

「明日の朝また迎えに来るから、今は帰らせてくれ、たのむ!」
「ぶー」
納得してくれたのだろう、百合子ちゃんはそっと両腕を放してくれた。
「明日も、来てくれる?」
思わず提言してしまった約束に一瞬後悔しながらも、俺は肉体的自由を確保するために頷いた。
「なら、いいけど。でもまだ帰っちゃ嫌。もうちょっと話しよう」

ということで、しばらく他愛無い世間話に花を咲かせるのであった。
「好きなタイプの女の人は?」
「大人っぽくて、クールな人」
「それってまるっきりあたしじゃん!」
「どこが」
「初キスはいつ?」
「話の脱線速度、半端ねぇな」
「いいから答えて!」
「実はまだ一回もないんだが」
「じゃ、あたしがもし今したら、お互いにとってファーストキスだね」
「いやなファンタジー小説だな」
「ぶー!」

という具合に話し込んで、気がついたら夜の10:00だった。さすがにそろそろ家に帰らないと、両親に怒られる。

「じゃ、また明日」
軽く別れの挨拶をして俺は帰路に就いた。百合子ちゃんは大仰に手を振りながら「今日は楽しかったよー!」と言ってくれた。




そして今に至る。湯船に浸かりつつ、俺は感慨に耽っていた。今もあの娘は、公園に居るのだろう。寝ているのだろうか、まさか一人でシクシク泣いているとか…。そんなことを考えていると、ぎゅーと胸を締め付けられそうになる。どうしても自宅に泊まらせるわけにはいかないんだから、仕方のないことだ。そう割り切るようにして、俺は風呂から上がり、歯を磨いてからすぐに就寝した。意識が遠のくまで全然時間がかからなかった。


翌朝、俺は飛び起きるようにして起床し、学校の用意をすぐに済ませて公園を目指した。どうしても百合子ちゃんの声が聞きたかったのだ。そして、謝りたかった。別に悪いことをしたわけではないが、なぜか謝りたかった。「昨晩は寂しい思いをさせてごめん」、「朝食買ってあげようか」、「今日も放課後迎えに来るよ」。まとまりのない感情が、奔流の如く溢れて出て来た。俺はすっかりあの娘の保護者になっていた。

住宅街を抜けてやっと公園にたどり着いた。が、百合子ちゃんが見当たらない。大声で名前を呼ぶも虚しく、返事はない。焦りながらも周りを探すが、やはり居ない。約束したのに。もう小学校に登校してしまったのだろうか。でもあの娘なら待ってるはずだ。心配がさらなる心配を呼ぶ中、俺は放課後戻ることにし、今は仕方なく高校に遅刻しないよう急ぐことにした。嫌な予感を振り払いながら、俺は公園を背にしたのである。

そして、放課後も居なかった。絶望的な気分だった。根拠もなく泣きたかった。そのまま家に帰り、その日はぐったり寝てしまった。



次の日も、その次の日も、毎日朝と放課後に公園を訪ねたが、百合子ちゃんは居なかった。約束を破ったような気分になり、罪悪感が沸いてくる。

それから一週間が過ぎ、いつのまにか一ヶ月が普通に過ぎていったが、それでもやはり百合子ちゃんに会うことはなかった。果たして、あの日の出来事は実は幻ではなかったのだろうか、と不意に思うことがある。だが彼女の手の感覚はリアルだったし、泣く彼女を抱き締めたときの温かさも、帰らないでくれと抱きつかれた時の重さも、鮮明に覚えている。ふらっと、何事もなかったかのように俺の隣にまた現れてくれることを切に願った。

願ったが、ついに叶うことはなかった。

冬が終わって春が来た。大学も受かった。高校も卒業して、その後の生活も普通に続いた。次第に公園のことも忘れていった。時の流れは残酷なものだった。ありし日の百合子ちゃんのことが、記憶の片隅に埋没していくようだった。

そんなある日、久しぶりに会った高校時代の友人からある話を聞いた。近所の公園に昔現れていたという、少女の霊の話だった。時々出没しては悪戯をし、あどけない笑声とともに霧散する、小学生くらいの女の子が居たそうだ。俺は初耳だったが、ちょっとした都市伝説だったらしい。

「最近は全然見かけられないらしいけどな。成仏でもできたんだろうか」
友人は何気ない調子でそう述べた。俺は泣きそうになっていた。

その日の帰り、俺は久しぶりにその公園を訪れた。幻の日から数えて実に二年半が経過していた。相変わらず人気のない、寂しい在り様を呈していた。見栄えのいい春日和だというのに。木々が立ち並ぶ公園の片隅に、ベンチがあった。いつしか少女と二人で食事を摂ったベンチだ。

俺は小声で呟いてみる。
「ただいま」

すると、幽かだが少女の声が、返ってきたかのように聞こえた。
「おかえり」



>なごみん
要望に則って続きを書いてみた。さすがにこれ以上は続けられん。


>Nimys
ありがとうです^^
今回も余韻重視の方向でいきました。


>か
百合子ちゃんは電波ヤンデレツンデレロリっ娘宇宙人幽霊だったのです。
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早朝の公園で幼女の名を叫ぶ高校生、
ってのはなかなかシュールな場面だな。

完璧なHappyEndではなくTrueEndっぽい終わり方が
私好みですww
PCゲーもhappyよりもtrueの方が好きだったりします(笑)
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百合水仙

Author:百合水仙
大学生♂

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M3-2010秋
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M3-2009秋
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M3-2009春
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