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2009-02-20

不条理で理不尽な世界に捧げるバレンタイン 後編

一応、閲覧注意です。過激な描写はないですが、女装好きの変態少年に気分を害される方は記事スルーでお願いします^^



放課後、俺はどうにでもなれという自暴自棄な気分で駅前のカラオケ店前にて一人待機していた。トモヤはというと、着替えてくるからという連絡を残して一旦帰宅したのだが、一向に戻る気配が無い。この瞬間にも、世の中にはバレンタインを謳歌している高貴な人種もいるのだろうな、という惨めな妄想に浸りながら、俺は駅前広場を行き交う人々の群れをぼんやり眺めていた。

「健斗くん!」
背後から甘ったるい声。普段から女の子に下の名前で呼ばれることのない俺は、不覚にも一瞬ドキッとしてしまったが、すぐに声の主に気付いて、自分が恥ずかしくなった。振り向くと案の定、そこにはトモヤが居た。

「ごめん、待たせたかな?いやいや、自分で聞いておきながら愚問だよ。健斗くんに待機を要求したのが他でもないこの僕だからね。放課後の貴重な時間を空費させてしまって、ひたすら申し訳ない気持ちでいっぱいだよ」
いつもの軽口を叩くトモヤに、しかし俺はツッコミを入れる余裕はなかった。なぜなら俺は、親友の奇抜すぎるファッションに釘付けだったからだ。刺繍の入った可愛い白ブラウスに、ヒラヒラの赤いミニスカート。黒いニーソクスが華奢な両足を膝上まで包み、スカートからチラリと覗く太ももの肌色を際立たせていた。胸元にはパッドでも入れているのだろうか、やわらかな膨らみがブラウス越しに確認できた。スレンダーな体躯と端整な顔立ちとが相まって、足元から毛先まで、反論のしようもなく見事な美少女を完成させていた。これがもしトモヤでなければ音速で卒倒しているところだが、どうしても親友であるという事実は拭えないので、かといって眼前にある光景を簡単に受け容れられるはずもなく、俺はただ単にフリーズするしかなかった。

「またしても僕の斬新な装備に興味津々のようだね、健斗くん。男の子だから仕方ないのだろうけど、僕もあくまで生物学上はあんたと同じ男性だからね?欲情されると世間体的にも気持ち的にも非常に困るんだ。あ、ごめんごめん、ちょっと言い過ぎたかな。さすがに親友に下心を抱くような輩ではないもんね、健斗くんは。僕の理解と配慮が足りなかったよ」
「お前の理解と配慮の供給量は、推奨値の遥か斜め下を滑空してる気がするんだが、気のせいか?」
「紛れもなく幻覚だよ。早期に専門医に診てもらうことを勧めておくよ」
トモヤとのアホすぎるやりとりに疲れ、俺は疑問を口にすることで話題の軌道修正を図った。
「ところで、お前の友人だという男女数人はまだ来ないのか?」
「ああ!丁度その件について伝えようと思っていたところなんだ!思っていたところなんだが、どう切り出したらいいものかと、あれこれ迷ってはイジイジしていたんだ。そんな僕の事情を斟酌して、会話に切り口を入れてくれた建斗くんに感謝するよ!些細な事ながら、やはりこれが親友というものなのだと改めて実感したよ!」
「いいから早く教えろよ」
「失礼。つい興奮してしまうのが僕の昔からの性分なんだ、寛大な心で以って許してくれ。友人数人の件だが、どうやら遅れてくるらしい。すまないが先にカラオケを満喫していてくれ、あとで合流するから、という旨の連絡がさっき入ったんだ。いやいや、本当に申し訳ないよ。僕の方から誘っておきながら、ね?」
「気にするな。第一に、ホイホイ付いてきてしまった俺の責任でもあるし、さ」
「このような事態をお招きしましたことを、深くお詫び申し上げる方向に検討を重ねるとともに、再発防止のため、万全を尽くすよう善処する所存であります」
「全然謝る気ねぇだろ!」
ごめんごめん、とトモヤは声を出して笑いながら繰り返した。果てしなく胡散臭い男だが、一方で眩しい笑顔の美少女が目の前に居るという光景に、あながち悪い気はしなかった。

「まぁ、店の前で立ち話もアレだし、遅刻組の提言どおり、先にカラオケを楽しんでおこうぜ」
「そうだね、合理的な判断だね。賢明な建斗くんに似つかわしい良策だわ」
あからさまなお世辞を吐きつつ、トモヤは続けた。
「ところで一つお願いがあるんだけど聞いてもらえるかな?いや、そんな改まったもんじゃないんだけどさ、ちょっとした頼みがあるんだ。建斗くんさ、今日一日僕の彼氏役を演じてくれるわけでしょう?でも、いきなり彼氏だとか言われても不自然な演技しかできないと思うんだよ。自分から頼んでおきながら本当に勝手だとは解かっているんだけど、素顔がバレちゃうと困るんだ。そこで、失敗しないようにあらかじめ練習しておきたいんだ。彼氏としての、練習をさ」
真摯な表情でトモヤは訴えてくる。言い分は解かるんだが、意味が解からない。
「彼氏の練習って、一体どうして欲しいんだ?」
親友は口許を綻ばせ、すかさず腕を翻して俺の手を握ってきた。突然の肌の感触に、脳内活動が全停止した。
「え、ちょ、な…」
反応に困る俺を意にも介さず、トモヤは嬉々とした足取りでカラオケ店の自動ドアをくぐった。半ば強引に俺を連行して。



カラオケの薄暗い個室の中、混乱しきった頭のまま俺はポリウレタン製のソファに腰掛けていた。隣には美少女装束を身にまとったトモヤが至近距離で座しており、繋いだ手を離す気配はまったく無い。
「そんな緊張されると僕まで変な気分になるよ。あくまで練習だからね」
言いながら、トモヤは指を絡ませてきた。耳元では息遣いが、手からは体温が伝わる。相手が親友のトモヤだとは知識で理解していても、五感が訴えてくる感覚はあまりにもリアルで、それ以上に頭が半ば真っ白だったので、隣に居るのは本当に女の子なのではないかと錯覚に陥る。

トモヤがさらに身体をくっつけてきたところで、俺は理性を取り戻し、一歩後ずさって距離をとった。不覚にも高鳴る心臓に、変な罪悪感を覚えた。俺は今、越えてはいけない一線を越えるところだったのだろうか、と。
「ごめんよ、ちょっと本気でやりすぎたかな。建斗くんの反応があまりにも面白いから、つい」
申し訳なさそうに苦笑しながら、トモヤは足を組み直して、スカートを整えながら姿勢を正した。こいつは一体何を考えているのだろうか?心中がまるで読めない。それどころか、あまりにも言動が意味不明で恐怖心が沸いてきた。

「ねぇ、建斗くん?例えばの話だけどさ。もし僕みたいな女の子からいきなりキスを迫られたら、どうする?」
唐突過ぎる発言に俺は一瞬固まってしまったが、一拍置いてから冷静に返答。
「お前みたいだったら退散する」
「据え膳食わぬは男の恥だよ?」
「お前を据え膳として見てねーよ」
「そう?」
「そうだ」
「ふーん」
トモヤは一瞬考えるフリをして、諦めたのか、そっぽを向いてしまった。そのまま返事も無く、しばらく時間が経った。
「どうかしたのか?」
心配になって歩み寄ると、あろうことかトモヤは間髪を容れず強引に唇を重ねてきた。軽く奇声を上げながら俺は後ずさり、テーブルの足に躓いて後ろから全力で転倒した。視界が回転し、後頭部を壁に殴打。全身が激痛に軋み、意識が飛びそうになった。しかし、そんな衝撃よりも、唇が触れた一瞬の感覚の方が衝撃的だった。大丈夫か、と慌てふためきながら駆け寄る似非少女を片目に、俺はこっ恥ずかしい気持ちでいっぱいになった。

「ねぇ、建斗くん?ひとつ教えてあげようか?」
肩に腕を回して俺が起き上がるのを手伝いながら、耳元で囁いてきた。
「なんだよ、本気で気持ち悪いな」
「う・そ・」
「何が?」
「えへへ。実は、他校の友人なんて居ないんだよ。全部嘘だよ。ごめんね」
「はぁ?」
呆れ返る以前に、意味が飲み込めなかった。
「良心の呵責に耐えられないから教えてあげちゃうわ。実は今日の、彼氏を演じてくれ云々は、全部嘘なんだ。ドッキリとまでは行かないまでも、すべて建斗くんを誘うための口実だったんだ。誤解される前に断っておきたいんだけど、悪意は無いからね?ただ、一回だけやってみたかったんだ、彼氏ごっこ。そのために用意したのが今回のシナリオで、その絶好の機会がバレンタインだったわけ。ちなみに今朝の手紙の件は、これのための事前演出だったんだ。一番騙されやすいのは一回騙された人だ、という心理学的な統計もあるしね。結果論、女子と全く無縁な建斗くんでも、バレンタインデーだけの夢とはいえ僕みたいな女の子とラブラブできて有意義だったでしょ?反論は許さないよ、顔に書いてあるんだから。最終的には双方とも得をしたわけだね。僕自身は上手くいったと自負しているんだが、どうだろ?びっくりした?」
無邪気に笑いながら自慢げに語るトモヤ。
「勘違いされたくないので改めて述べておくけど、僕はあくまで異性愛者だからね。変な感情を向けられると困るんだよ。そう注釈を入れておくとともに、建斗くんが気分を害されたかもしれないことに配慮して、ここにて謝罪しておくよ。本当に申し訳ない。どうか親友の戯れの一環として大目に見てくれ」

トモヤの饒舌すぎる真相告白に返す言葉はなかった。俺はただ単に笑った。制御不能な哄笑が込み上げ、俺はソファを両手で打ちつけながら盛大に笑った。一瞬きょとんとしていたトモヤも、次第につられて、二人で大爆笑した。

ああ、面白すぎるぜ、そして理不尽すぎるぜ、トモヤよ!お前は本当に俺の親友でよかった!感動した!惚れた!惚れ直したぜ!

「そんなに喜んでくれるとは思わなかったよ、本当にありがたいね。祝賀会として後からチョコレートを…」
しかしトモヤの台詞を遮って俺は大胆な行動に出た。さっきのキスのお返し。動転する親友を羽交い絞めにしながら唇を思いっきり奪う。
「あくまで義理だからな、勘違いすんなよ」
驚愕に目を白黒させながらも、トモヤはなんとか頷いた。女だろうが男だろうが、金輪際関係ない。平凡に始まった今日も、トモヤの手に掛かれば世にも非凡なバレンタインデーに化ける。その不条理さを、理不尽さを俺は愛している。

その日は結局、最後まで美少女に扮した奇妙な男との二人きりの奇妙なカラオケデートを満喫することになった。当初は複雑な心境で臨んだものの、徐々に気分が晴れていき、カラオケは大いに盛り上がった。あっという間に時間は流れ、店を出る頃にはすっかり暗くなっていた。その後、約束通りトモヤは近所のコンビニにてチョコを購入し、「これで妄想とかされちゃうと嫌なんだからね!」という解釈不能な台詞を添えてプレゼントしてくれた。これってホワイトデーに返さないといけないもんなのだろうか?良く解からないが美味しく頂きました。

そんな感じに、俺の奇妙なバレンタインは幕を閉じた。翌日学校では『波中健斗が謎の美少女とデートしていた』というスクープが、尾ひれをつけた噂となって流れていた。居心地の良い話ではなかったが、俺は苦笑するしかなかった。平凡な俺が目立つきっかけを作るために、トモヤが意図的に自ら流した噂だとしても今更驚かない。見慣れた男子制服に身を包み、左右に伸びた黒髪を掻き分けながらニヤけている隣の親友に確認すればすぐに判明することだろうが。



終わり。

バレンタインである必要性が皆目見当たらない、バレンタイン小説でした('A`)
とっくに過ぎてしまってるし、別にいいか。(いいのか!?)

気分を害された方、ごめんなさい。この物語はフィクションであり、登場するすべての人物、出来事は架空のものであると願うばかりです。


>か
「発売中」に「絶賛」を付けると強調構文になるでしょ?
同じように「悩み中」に「絶賛」を付けると強調されるんだ


>ふーみゃ
結局予定変更されましたがお疲れ様でした^^


>クロフク
国立を舐めるなよ?センターの点数ボーダーラインに足りてないんだぜ?
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面白がった(´∀`*)
あと、ニヤニヤをありがとう
女装攻めっていいね(違うから

変換ミスして、面白がったになってたよ(´・ω・`)
正しくは、面白かった、だね。キミに訂正される前に訂正しとく。うん。

トモヤくんが素晴らしすぎる。ぜひ嫁になっていただきたい。(…)てかずるいぞ健斗!
黒猫さんがいたら卒倒ですよ。卒倒せずとも人体観察は怠らないでしょう。維新さん我らに理想の供給をありがとう。(…)
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